漢方治療エビデンスレポート
日本東洋医学会EBM委員会エビデンスレポート/診療ガイドライン タスクフォース
19.
損傷、中毒、術後の疼痛
文献宮崎道彦, 安井昌義, 池永雅一, ほか. 結紮切除術・術後疼痛に対する芍薬甘草湯の
NSAIDs 上乗せ鎮痛効果-無作為割付による比較検討-. 日本大腸肛門病学会雑誌
2012; 65: 313-7. 医中誌Web ID: 2012256652 J-STAGE 1. 目的
痔核・粘膜脱の結紮切除術後疼痛に対する芍薬甘草湯の有効性の評価
2. 研究デザイン
ランダム化比較試験 (RCT)
3. セッティング
実施施設に関する記載なし (筆頭著者はどうじん会道仁病院大腸肛門科・国立大阪病院
医療センター外科)
4. 参加者
痔核、粘膜脱に対する結紮切除術を3ヶ所以上施行した痔核、粘膜脱症例39 名
5. 介入
Arm 1: 結紮切除術後、diclofenac sodium 75 mg/日+ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒7.5 g/
日 分3経口投与 18名
Arm 2: 結紮切除術後、diclofenac sodium 75 mg/日 分3経口投与 21名
両群とも鎮痛効果の悪い際は、注射鎮痛剤pentazocine 15 mg+hydroxyzine pamoate 25mg
の筋肉注射またはdiclofenac sodium 50 mg坐薬、loxoprofen sodium内服頓用を許可した。
6. 主なアウトカム評価項目
疼痛スコア (Visual Analog Scaleを用い0-10点で表記、その日の最大値を採用) 、疼痛の
種類 (安静時、排便時、動作時) 、疼痛スコアが3点以下になるまでの日数、安静時疼
痛の消失までの日数、疼痛による夜間覚醒の有無、注射鎮痛剤使用の有無、坐薬ある
いは内服による非ステロイド系鎮痛剤 (NSAIDs) の追加使用の有無
7. 主な結果
疼痛スコアは術当日を除く術後1日目から9日目でいずれもArm 1がArm 2に比較し
て有意に小さかった (P<0.05) 。疼痛の種類に関する記載はない。疼痛スコアが3点以 下になるまでの日数はArm 1が平均2.1日に対してArm 2が平均5.2日と有意差を認め
た (P<0.05) 。注射鎮痛剤使用の有無はArm 1が3回 (17%) に対してArm 2が10回 (48%)
と有意差を認めた (P<0.05) 。安静時の疼痛が消失するまでの日数、NSAIDs追加使用の
有無、疼痛による夜間覚醒の有無の各項目は両群間で有意差を認めなかった。
8. 結論
痔核・粘膜脱の結紮切除術後疼痛に対して芍薬甘草湯の NSAIDsへの上乗せ投与は疼
痛改善に有効である。
9. 漢方的考察
なし
10. 論文中の安全性評価
芍薬甘草湯による副作用は認められなかった。
11. Abstractorのコメント
痔核・粘膜脱の結紮切除術後疼痛に対する芍薬甘草湯の NSAIDsへの上乗せ投与への
有効性を検討した臨床研究である。結紮切除術法は優れた治療法でありながら術後の 疼痛が原因で敬遠されている。その合併症を軽減するための臨床医ならではの発案に よる興味深い臨床研究である。一方、疼痛スコアのグラフをみると、有意差がないも のの術後当日から芍薬甘草湯投与あり群の疼痛スコアが低く経過しているようにみ
え、当初の割付方法に問題があると思われた。また、疼痛スコアの平均値が術後当日 (芍
薬甘草湯投与なし/芍薬甘草湯投与あり) 5.7/5.1で有意差がなく、8日目は同 2.4/2.1の
差で有意差が有りになっている。8日目はバラツキが小さかったことも考えられるが、
平均値のみでなく標準偏差等の記載があると、より積極的に統計学的な差を訴えるこ とができたのでないかと思われる。しかし、筆者らも考察で述べているように、本法 は比較的簡便な方法で術後の疼痛を軽減できる可能性がある治療法であり、今後、多 施設での大規模な有効性の評価が望まれる。
12. Abstractor and date
後藤博三 2013.12.31